(3) 山不思議・山道の斜面が消えた


恵那山<夏山>

UFО遭遇事件の前に山で起こった出来事その2。

山は雨だった。 キャップをかぶって、 レインウエアを着込み、山靴にショートスパッツを巻きつけて、 靴先の紐にフックをかけた。 沢沿いの道を抜けて林道に入る。 テントを設営して昼食を取った。 雨が収まり、山が誘った。 テントをそこに設営したまま、 バックの中身を軽くして登り始めた。

飴の包み紙がポツリと落ちている。 しばらくして、その人が下山してきた。 すれちがいながら挨拶を交わした。 夕方近くになって登頂した。 営林署の職員が声を掛けてきた。 頂上で人に会ったことで、 すっかりくつろいでしまった。 腕時計を見て少しあわてた。 一目散に雨の中、下山を急いだ。 途中、曇天に変った。 足下はまだ明るい。道筋もよく見えた。

登山用のレインウエアは高機能で密閉度が良く、 動きも柔軟でスクラッチに強い。 脱ぐのを忘れてそのまま走りこむように下山を急いだ。 雲が厚く垂れこめていた。 山道はうす暗く、さらに暗くなり、 あっという間に闇へと変わった。

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漆黒の闇に たたずみ、たじろぐ。 熊の池の手前でたたずんだ (1993年当時は避難小屋はなかった)。 闇の中で山道を何度も思い起こした。 雨を避けながらジッポーライターを着火した。 わずかに足下を照らした。 予備の点火石はなかった。 ジッポーを使うのが怖くなった。 胸ポケットにしまいこんで、 無くさないようポケットのボタンを留めた。

当時は約10Kgの荷重を背負って平坦な道を時速約6Kmで歩いた。 しかし、闇の中では進めない。 体はとうとう平衡感覚を失った。 へたりこんでしまった。 腰を地面につけたまま 両手、両足で地面を手繰り寄せるようにヨロヨロと進んだ。 平坦な山道の熊の池を過ぎて斜面に向かった。

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斜面はどこだ。 転げ落ちてでも下山したかった。 木の根もとで山道が盛り上がっていた。 根もとの盛り上がりが、気の迷いを生み出した。 さあ、どっちだ。 ジッポーの明かりが根もとの起伏に複数の影を落とした。 にじりあがるように前に進んだ。 下がりたい気持ちを抑えた。

越えれば急斜面になるはずだった。 しかし、奇妙なことに急斜面が忽然と消えた。 何度、思い起こしても斜面はなく、 そこを下りた記憶すらない。 この事件の後、山へ何度も訪れて検証したが、 実在する斜面の行程をどう辿ったのか全く覚えがない。

気付くとテント前にいた。 斜面を下りずに辿りついていた。 奇妙だったが、 闇の中でテント生地に触れた瞬間、喜びがあふれた。

テントにはその日、昼食に使用した携帯用の固形燃料が残っていた。 ジッポーで着火した。 大きな光が空き地の周辺を照らした。 テントを畳みこみ、荷造りを終えた。 缶は熱を帯びて熱くなっていた。 闇の中に炎を高く掲げた。 小さな丸太橋を渡って林道を抜ける、はずだった。 油断した途端に炎は燃え尽き、また暗闇にもどった。

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(4) 山不思議・水筒から水音


UFО遭遇事件の前に山で起こった出来事その3。

足を踏み外して土手の斜面を滑り落ちた。 ザーと水の音が間近に聞こえた。 林の中を流れる沢の音だ。 がっくりと気落ちした。 山道にもどる気力も失せた。 暗闇の中で「もうどうにでもなれ」と、 沢の淵から体を入水させた。

登山口までは大きな沢に沿って山道がある。 沢を辿れば、確実にもどれる。 レインウエアを着込んだままで入水した。 浮きつ沈みつ、漂いながらも進む。 何も見えない。 たまの深みで鼻先まで体が水に沈み込む。 あわてて土手の淵にしがみついた。

手首が曲がって力が入るたびに 腕時計の操作ボタンにどこかか触れて奇妙に青白く光る。 小さな光に驚かされ、何度も気力を取り戻した。 闇の中、騒々しい沢の音を聞きながら、

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<宇宙> 流れがゆるくなった。 右手の土手に藪が見えた。 藪の向こうに明るさを感じた。 思い切って沢を上がって土手をかけ上り藪をかき分けた。 沢幅ぐらいの山道が白く浮かび上がった。 一瞬、また別の沢に入ったかと錯覚した。 足を踏み込んで、土の固さを踏み当てた。 なぜ白く浮かび上がったか。反射光の変化に気付かず山道をとぼとぼと歩いた。

ふと空を見上げて驚いた。 天空の風に感謝だ。 垂れこんだ曇が嘘のように失せていた。 天空を眺めた時に思わず大きな、うなり声がでた。

星が降り注ぐ天空のすごさ、宇宙そのものが目の前にあった。 沢を下って疲れ切った体に星の雨が降り注いだ。 星に手が届きそうだった 何とも言えない大きな幸福感に包まれた。

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<水筒から水音>帰宅と同時にベットに倒れこんだ。 次の日の夕方まで寝込み、奇妙な水音で目を覚ました。

部屋中に水の音が響いていた。 どこから響くのか分からなかった。 目の前の水筒を見て総毛だった。

置かれた位置で微動だにしないはずのサーモス(500mlのステンレス製の携帯用の水筒)が鳴っている。 振動もなく触れもしていない水筒が水音を立てている様子をジッと見つめた。 気味悪く「チャポンチャポン」と鳴り響く。 頭がおかしくなりそうだった。

ゆっくりと両手を伸ばして、しっかりと思い切り力をこめてつかんだ。 水音はそれでなぜか鳴り止んだ。 この事件は、時間が消えた出来事の前に起こった。

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